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ある企業の人事担当者は苦笑しながら語った。
たとえば、「学生時代、何を頑張ったのか」という課題作文。
話が始まってしばらくすると、たいていちょっとした挫折体験がはさみ込まれ、その後に苦労してそれを乗り切ったと続く。
「私は困難に打ち克ってきました」という筋書きだ。
話はよく練り込まれており、以前なら引き込まれていただろうとその人事担当者は言う。
かたや、学生の側も、就職活動のための情報収集は悲壮感が漂うほど必死だ。
東京の私立大学に通うある男子学生は五〇社余りに応募するも、「敗戦」を重ねてきた。
大学や自宅でパソコンの画面にかじりつき、「就活」サイトで情報収集する。
寝る時間も惜しむばかりか、電車内でも携帯電話でチェックを欠かさない。
[そうしておかないと、対応できませんから」そうしてネットの体験情報を人手しつつ、就活マニュアルでの勉強に精を出す。
学生の就職活動はいまや情報戦の様相だ。
企業が提供する情報もウェブが中心で、自社社員のインタビュー集や各種事業概要を自社サイトで紹介する。
動画を充実させたり、選考におけるQ&Aを記載している企業もある。
学生の多くは、それらに目を通すことで、“わかったつもり”になって応募する。
ただし、こうした企業による提供情報の多くは本音ではなく“建前”だ。
汗臭さや泥臭さを排除し、きれいな姿を紹介する。
それもまた企業の論理からすれば当然の話だろう。
だが、そうした企業の提供情報は応募者のほとんどが見聞きしているものであり、必要最低条件をカバーしているに過ぎない。
それだけの情報で臨んだところで、その企業の実質がわかったとは到底言いがたい。
一方で、数ある就活サイトではおびただしい量の情報が飛び交う。
たしかに匿名の学生たちによる体験談は生々しく、そこには、“本音”があるように見える。
ただし、直前にそれを読んで、付け焼き刃の準備をしたところで、百戦錬磨の面接官、人事担当者の目をごまかすことはできないだろう。
またネットに流れる情報の中には、噂レベルの不確実なものも含まれているようだ。
どうも昨今の就職活動を見聞するかぎり、本当に重要なことが理解されぬままに、学生は「就活」に臨んでいるように思えてならない。
就活サイトや面接マニュアルなど、氾濫する情報の海に溺れ、その本質を見失っているのではないか。
たとえば、「学生時代の成果」を問われ、大学対抗のテニス大会で優勝したと答える。
では、その戦績を面接官は評価するのかといえば、答えはノーだ。
一流のテニスプレーヤーを採用したところで、その企業の事業に貢献するわけではない。
面接官が知りたいのは、その学生が優勝に至る過程で、何を考え、どのように工夫してきたかというプロセスだ。
それを聞くことで、学生の資質を見極めようとしているのだ。
つまり、面接官は、その質問を投げかけることで何を見ているのか、問いの背景にはどんな意図があるのかを深く理解していなければ、適切な答えはできない。
ウェブやマニュアルを全否定するつもりはないが、就職活動の本質が理解されぬまま臨んだところで、よい結果が得られる可能性は低いのだ。
取材は二〇一〇年度採用活動が終わったばかりの時期に行われた。
数千人、数万人を、数十人、数百人に絞り込む作業をしてきた直後だ。
まだ熱が冷めやらぬ時期に、あえて企業秘密ともいうべき話を聞かせていただいた。
「それは通常お答えしていないんです」というリアクションもしばしばだったが、手を替え品を替え、彼らの本音に迫った。
日本を代表する企業の人事部長たちは、学生の何に着目し、どういう点を評価し、結果的にどんな人物を採用しているのか。
個々の企業には、それぞれ固有の歴史があり、社風というべきDNAも確固として存在している。
そうした社風やDNAも人事部長の話を読めば、自然と見えてくるだろう。
また同時に、事前に打合せをしたかのように、人事部長たちが口を揃える共通の要件もあった。
人はなぜ働くのか。
社会に出るとはどういうことか。
人は組織の中でいかに鍛えられるのか。
そしてだからこそ、どんな人材が欲しいのか社内のあらゆるセクションから社員を動員し、一ヶ月程度の短期間で結果を出す。
社内的には新卒の採用活動は大イベントです。
二〇一〇年採用で言えば、エントリー数は約二万四〇〇〇人。
そこから最終的に内々定を出しだのは総合職では一〇〇名ほどです。
早い時期の説明会から参加している人も多かったので、学生さんからしてみると、かなり大変だったのではないかと思います。
うちの総合職の面接は基本的には一対一。
時間も三〇分から一時間はかける。
選考に膨大な時間をかけています。
選考の前段階で社員と一対一で話す機会を設けることもあります。
この段階では、JR東海はどんな会社かを理解してもらうことに比重を置いているんです。
こんな会社で、使命はこうで、こういう人がいると。
担当するのは入社数年を経過した社員です。
そういう話をしたときの学生さんの反応は様々です。
こちらがいろいろ説明しても、意欲のある人はJR東海をもっと理解するために、突っ込んだ質問をしてきます。
さらに当社への理解を深めてもらおうという場合には、いくらか年次の高い社員と会ってもらいます。
社歴が長くなる分、話す内容もより踏み込んだものになります。
こうしたやりとりの中で、学生さんの特徴も出てきます。
面接用に話をつくってくる人はカセットテープのスイッチを押したように同じ話を繰り返したり、辻棲があわない部分が出てきたりする。
サークルやゼミに入っており、幹事をやっていた、リーダーでがんばっていた、というのであれば、具体的なエピソードを聞かせてもらう。
こうして選考に入る前の段階では学生さんの持ち味を引き出してあげることに力点を置きつつ、人事部面接からは、そうして引き出された学生さんの良さを深く見極めていきます。
温厚な雰囲気の中に、論理的な話し方。
S.H取締役は一九八〇年に国鉄に入社。
盛岡駅や新潟鉄道管理局などでの勤務を経て、分割民営化でJR東海に採用され、財務部や営業本部を経験した。
その後、人事部を中心にキャリアを重ね、新幹線鉄道事業本部、総合企画本部を経て、取締役人事部長に就任した。
総合職事務系の場合、自身が面接の場に出てくるのは最終段階ということで、学生からすればS.H氏の姿が見えればゴールは近いということだ。
志望動機でみると、超電導リニアによる東海道新幹線バイパスを自己負担で実現する計画に共感したという意見が事務系・技術系の両方で多数ありました。
また、当社は終身雇用を明確に謳っているので、そうした部分も昨今の経済環境から学生さんにとっては魅力的だったのかなと思います。
ただ、それは言うまでもなく、鉄道事業の安全・安定輸送という事業基盤があってのことであり、それがお客様や社会にとってどれだけ重要かという社会的使命を理解してもらうのが大前提です。
うちのような会社では、個人プレーでできることは少なく、ほとんどはチームワークによるものです。
もちろん新しい技術や事業への挑戦的な姿勢は必要ですが、まずはチームとの協調性やコミュニケーションが求められる。
そうした当社の実像を面接を重ねるなかで徐々に学んでいき、理解したうえで働きたいと思ってくれる人に来てもらう。
それが当社の選考だと思います。
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ただし、こうした企業による提供情報の多くは本音ではなく“建前”だ。
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二〇一〇年採用で言えば、エントリー数は約二万四〇〇〇人。
そこから最終的に内々定を出しだのは総合職では一〇〇名ほどです。
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時間も三〇分から一時間はかける。
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温厚な雰囲気の中に、論理的な話し方。
S.H取締役は一九八〇年に国鉄に入社。
盛岡駅や新潟鉄道管理局などでの勤務を経て、分割民営化でJR東海に採用され、財務部や営業本部を経験した。
その後、人事部を中心にキャリアを重ね、新幹線鉄道事業本部、総合企画本部を経て、取締役人事部長に就任した。
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ただ、それは言うまでもなく、鉄道事業の安全・安定輸送という事業基盤があってのことであり、それがお客様や社会にとってどれだけ重要かという社会的使命を理解してもらうのが大前提です。
うちのような会社では、個人プレーでできることは少なく、ほとんどはチームワークによるものです。
もちろん新しい技術や事業への挑戦的な姿勢は必要ですが、まずはチームとの協調性やコミュニケーションが求められる。
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それが当社の選考だと思います。
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